大使挨拶

令和4年6月3日
 日本大使としてコンゴ民主共和国に赴任してから、早いもので1年半が経過しました。
 
 既に私の赴任前から世界中で猛威を奮った新型コロナ感染症は変異しながら常に私たちの生活を脅かしてきました。私たちもやむをえず外交活動の幅を狭めざるを得ず、現地在住の邦人の方々とも十分に接する機会を設けることができませんでした。そうした中、日本はCOVAXの枠組みを通じたワクチン供与や、コールドチェーン機材の提供など、様々な形でコンゴ民主共和国のCOVID-19 対策を支援してきました。その甲斐あって、ワクチン接種が進み、この長い闘いにようやく希望の光が見えてきたと言えるでしょう。引き続き状況を注視しながら、邦人の皆様との交流の機会を活発化させていきたいと考えているところです。
 
 この地はエボラ出血熱や新型コロナ感染症に限らず感染症の宝庫とされており、最近ではサル痘と言う新しい感染病がアフリカ西部・中部に出てきています。ワクチン接種が進み新型肺炎に対する恐れが低減してきたとは言え、まだまだ感染症に対する防御の壁を低くする事はできません。邦人の皆様におかれても引き続き十分ご注意頂きますようお願い致します。
 
 また、ようやくコロナ禍という長いトンネルの向こうに光が見え始めた中で、ロシアのウクライナ侵略が発生しました。今後のウクライナ情勢の動きについては、未だ見通せる状況ではありませんが、エネルギー、食料を始めとした分野で、様々な悪影響がこのアフリカの地でも現れ始めています。また、コンゴ民主共和国の東部でも武力抗争が続いており、皆様に渡航や移動の制約を課させて頂かなければならない状況です。我々の生活やコンゴ民主共和国における社会の安定に対して次から次へと暗いニュースが飛び込んで来ています。大使館としては、可能な限り必要な情報を提供し邦人の皆様を支援していきますので、大使館業務へのご協力・ご理解を引き続きよろしくお願いいたします。
 
 私は2020年末に当地に着任後、様々なツールを利用してコンゴ民主共和国と日本との間の友好関係を更に強化させるべく努力して参りました。しかし、そのツールとは、いわゆる日本の経済援助以外の何物でもなく、長期在留される邦人の皆様も、ほぼ全ての方が外交関係ないしは援助に携わる方、あるいはそのご家族の方です。コロナ禍で交通が途絶えたこともありますが、日本のビジネス関係者の方はごく少ないのが現状です。経済協力を維持しつつ日本のプレゼンスを高めていくという当館の目標に変わりはありませんが、日本の民間企業の方に当地での活動に参加頂く、また駐在をして頂くということが、二国間の友好関係を更に強化していく上で不可欠ではないかと考えるようになって参りました。他方で、ただでさえ気候面、健康面、また治安面の不安が多い当地には、ビジネスを行なっていく上で我々が当然と考える「基礎的環境」が欠けていることが多く、日本企業の方がいらしても結局失望されて撤退される例も少なくなかったと聞いています。
 
 当館を含む多くの在外公館には日本企業支援担当官が配置されており、日本企業の海外進出に関するサポート窓口となっております。当館ホームページの「大使館案内」または、外務省ホームページの「日本企業支援窓口リスト」から連絡先を入手していただけます。実際に企業の方が遭遇する諸問題については、実際にビジネスをなさっている方の経験談を踏まえ、改善点を洗い出すことがコンゴ民主共和国政府に改善要求をする上で最も適切であると考えています。窓口を通じて、指摘いただいた問題点については、当地駐在の他国の大使館とも共同して、当国政府に対してビジネス環境改善の提言として提示していきたいと考えており、是非とも皆様が遭遇してきた問題点を教えていただければ幸いと感じております。
 
 開発の途上にあるコンゴ民主共和国においては現状を打破し、さらなる発展を遂げる上で政府のオーナーシップがきわめて重要です。一方で、この状況を脱却するにあたっては、引き続き海外からのパートナーシップが必要なのも事実です。2022年は、我が国が日アフリカ協力における軸と位置づけているTICADが開催される年であり、パートナーシップの名のもとに、日本政府としてもアフリカ諸国との関係の深化に尽力していく所存です。一方で、日系企業の皆様の協力なしに持続可能な成長は難しいと考えており、是非とも多くの投資家が当地に戻ってくるための地均しをするための作業にご協力頂けるようお願い申し上げます。
 
 コンゴ民主共和国は2023年末に大統領選挙を控えており、これから徐々に選挙の季節に入ります。そうした中で、コロナ禍、ウクライナ情勢と世界的に経済の停滞を招きかねない事態が進行しています。コンゴ民主共和国のような厳しい環境にある途上国では、経済情勢が不安定化すると、政治にも大きな影響が及びます。この国がこの危機を乗り越え成長軌道を取り戻すためには、現政府が、これまでの腐敗と汚職の歴史に終止符を打ち、当地のビジネス環境を改善していく以外、手段がないと確信しており、皆様のご協力を仰ぎながら一層精進してまいりたいと考えています。
 
2022年6月吉日

駐コンゴ民主共和国大使 南博之
(コンゴ共和国兼轄)